遺言書とは?その必要性と無効になるケース
遺言書はなぜ必要なのでしょうか。遺言書の役割と効力を確認し、遺言作成の目的を整理してみましょう。円滑な相続を実現するためには、無効にならず、遺言を遺す方と相続人双方にとって本当に役立つ遺言書の作成が不可欠です。
遺言書とは
遺言書とは、遺言者の財産をどのように処分して欲しいか、誰に遺言を実行して欲しいかなどを記した法的書類です。
また、遺言は民法でその方式が定められていて、これに反する場合は無効になってしまいます。
遺言書に関する基本的な法律
はじめに、遺言書の基本的なルールをみていきましょう。
遺言書を遺せるのは15歳から
法的書類としての遺言書を作成できるのは満15歳になってからです。未成年でも両親の同意は要りません。また、両親などの親権者も遺言書の代筆はできません。
遺言に有効期限はない
遺言書に有効期限はありません。何十年前に作成した遺言書であっても、有効なものであれば実行されます。
遺言は書面で遺す
遺言は書面で遺さなければいけません。録音や動画の遺言は法的には無効です。
なぜ遺言書を残す必要があるのか?
遺言書は自身の死後に、「意思を伝えたい」という希望を叶えるための大切な書類ですが、その他にも、さまざまな役割があります。
ここでは、遺言書の主な役割と必要になるケースをみていきます。
相続人の負担を減らすため
遺言書の大きな役割の一つとして、相続人の負担を減らすことがあります。遺言者の死後に、銀行口座や財産のありか、その処分方法などが指定されていれば、相続人の負担は大きく軽減されるでしょう。
特に次のようなケースでは遺言書の必要性が増します。
相続税負担が生じるケース
相続税の基礎控除額を超える可能性がある場合は、あらかじめ対策しておくことをおすすめします。税理士に相談して、税負担を考慮した分割方法を遺言書で指定しておくこともできます。
相続財産の種類や数が多いケース
相続財産の種類や数が多い場合も注意が必要です。所有している銀行口座が極端に多かったり、不動産・美術品・有価証券などを相続するケースでは財産の全容を把握することが困難です。
事業を承継させたいケース
家業を相続人に継がせたい場合は、遺言書にその旨を記載しましょう。遺言書がない場合に単独で事業を承継するためには、他の相続人の同意を得なければなりません。
相続財産をめぐるトラブルを防ぐため
相続人同士で相続財産の分け方を決めるのは容易ではありません。遺言書であらかじめ分割方法を指定しておくことでトラブルを未然にふせぐことができます。
相続財産をめぐって相続人間でトラブルになりやすいケースをあげていきます。
子どもがいない夫婦
子どもがいない夫婦の場合、配偶者以外の親族も相続人になります。配偶者と両親や兄弟などの親族が揉めてしまうことも考えられます。
再婚したことがある・婚外子がいる
再婚したことがある方は、前の家族と今の家族で相続財産の取り分で揉めてしまう可能性があります。婚外子がいる場合も同様です。
疎遠な相続人がいる
たとえ仲の良い家族であっても、お金が絡むと話し合いは難しいものですし、普段から疎遠な相続人がいればトラブルは起こりやすくなります。相続手続きに協力してもらえない可能性もあります。
相続財産に不動産がある
不動産は簡単に分けることができないため、分割時に揉めやすい相続財産です。住んでいた家や土地も相続財産になりますから、注意しましょう。
相続財産が巨額
相続財産が巨額な場合は、トラブルも大きくなりがちです。相続税負担も大きくなりますので対策が必要でしょう。
遺言者の意思を実現するため
遺言書は死後に発言できない遺言者の意思を実現するものです。次のようなケースでは遺言書が必要です。
内縁の妻に相続財産を遺したい
内縁の妻は法的な相続人になれませんから、相続財産を遺す場合には遺言書が必要です。
子の認知をしたい
生前に認知していない子を認知したい場合、遺言書が必要です。
相続人がいない
相続人がいない場合に相続財産の処分方法などを指定する場合、遺言書が有用です。
遺言書の効力
遺言書の役割と同様に重要なのが、その効力です。遺言書に書いたことは、どのようなことでも有効になるわけではありません。
ここでは、遺言書に書くことで効力を持つ主な事柄についてみていきます。
相続財産について
おおかたの遺言書では、相続財産に関わることが中心的な内容となっています。相続財産に関して、遺言書で効力を発揮するのは次のようなものです。
相続財産の分割方法
相続財産の分割方法について遺言書で指定できます。分割割合を指定する、もしくは個々の相続財産について誰が相続するのかを指定できます。
法定相続分で分割する方法よりも遺言書が優先されますが、法定相続人の最低限の取り分(遺留分)を侵害している場合は、あとで請求される可能性が残ります。
相続人の廃除(廃除の取消し)
相続人から外したい人がいる場合には、廃除を希望できます。廃除されていた相続人を、相続人に戻すこともできます。
ただし実際に廃除されるのは、相続開始後に家庭裁判所に認められた場合です。
相続人以外への遺贈や寄付
内縁の妻や、知人など、相続人以外へ財産を遺す場合は遺贈を指定できます。指定した団体への寄付もできます。ただし、相続人の遺留分を侵害すると、後で請求される恐れがあります。
遺産分割の禁止期間を指定
5年を超えない範囲で遺産分割の禁止を指定できます。
遺言を実行する人の指名
遺言書の内容にある手続きを実際に行う遺言執行者の指名も有効です。第三者へ指名を委託することも可能です。
生命保険受取人の変更
遺言者の生命保険の受取人も遺言で変更を指示すれば効力を持ちます。(保険法第44条)ただし相続発生後、保険会社へ連絡して受取人の変更手続きを行う必要があります。
子どもの認知
認知していない子を遺言書で認知するように指定できます。遺言で養子縁組はできませんので、実子に限ります。
未成年の子どもの後見人の指名
子どもが未成年のうちに相続が発生した場合に備えて、子どもの後見人(未成年後見人)を指名できます。
遺言書が無効となるケース
効力のあるはずの内容を記載していたとしても、遺言書自体が無効になってしまうリスクもあります。
一般的によく作成される自筆証書遺言が無効になってしまうのは、次のようなケースです。
署名・押印・日付のない遺言書
遺言者の署名・押印・日付は遺言書の必須事項です。どれか一つでも欠けていれば無効です。修正の際の押印などのルールも守られている必要があります。
自筆でない遺言書
一部でも自筆されていない遺言書は無効です。ただし、改正により2019年1月13日以降に作成する遺言書の財産目録についてはパソコンなどで作成しても良いことになりました。
自筆証書遺言の書き方について詳細はこちらの記事をご参照ください。→<遺言書の正しい書き方!文例に見る遺言書作成のポイント>へのリンク
内容が明確でない遺言書
不動産の住所が間違っていたり相続人の名前の記載が曖昧だったりして判別がつかない場合など、指定した内容が不明確な遺言書は無効です。
判断能力のない人が書いた遺言書
認知症などが原因となり、判断能力が低下した状態で作成した遺言書は無効になる可能性があります。
遺言能力がない時点で作成された遺言書は、公正証書遺言でも無効になるケースがあります。
遺言書の種類
遺言書といえば、自筆証書遺言のことを指すことが多いでしょう。普通方式の遺言書にはこれ以外にも公正証書遺言と秘密証書遺言があります。このほかに緊急時などの特別な状況で作成する特別方式遺言があります。
普通方式の3つの遺言書の特徴は次の通りです。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は最も一般的で費用をかけずに作成できるものです。
遺言者一人でも作成できますが、内容が曖昧だったり、書き間違えをしたりすると無効になってしまいます。
2020年7月から保管制度スタート
自筆証書遺言は2020年7月に保管制度が始まりました。保管費用がかかり、遺言者本人が保管場所に出向く必要があるなどの手間はかかりますが、相続発生後の検認が不要です。保管制度を利用した場合、遺言書は法務局に保管されるため、紛失や改ざんのリスクもなくなります。
秘密証書遺言
秘密証書遺言は内容を秘密にした状態で、その存在を役場で証明してもらうものです。自筆証書遺言とは違い、パソコンでも作成できます。
裁判所の検認が必要
自筆証書遺言(保管制度を利用しない場合)と秘密証書遺言は、相続発生後に家庭裁判所で検認手続きをしてはじめて有効な遺言書になります。
秘密証書遺言は、自筆証書遺言と公正証書遺言の間をとったようなものですが、検認が必要であり、無効になってしまうリスクもあるため実務上はあまり使われていません。無効になるリスクのある秘密証書遺言をわざわざ作成するなら、公正証書遺言を作成してしまうほうがよい、というのが大きな理由でしょう。
公正証書遺言
公正証書遺言は財産が多額なケースでよく利用されます。費用はかかりますが公証役場で作成の手続きを経ているため、無効になるケースはめったにありません。公証役場で保管しますから、紛失のリスクもありません。
自筆証書遺言 | 秘密証書遺言 | 公正証書遺言 | |
---|---|---|---|
特徴 | 紙とペンと印鑑があれば一人で作成できる | 遺言の内容は秘密にできるが、その存在は明確にできる | 内容も存在も明らか。作成に費用と時間がかかる |
無効になるケース | ある | ある | ほとんどない |
検認 | 要(保管制度を利用する場合は不要) | 要 | 不要 |
備考 | 一般的によく利用される | あまり利用されていない | 相続財産が多額な場合などに利用されることが多い |
遺言書の準備を税理士に相談するメリット
遺言書の作成をする際には、早めに専門家へ相談するのが得策です。ここでは、遺言書の準備段階で税理士に相談することの主なメリットをみていきます。
相続税負担を考慮した遺言内容に
相続が発生した際に、相続人にとって大きな負担になる可能性が一番高いのは、相続税です。税理士なら、相続税負担を考慮した分割内容や、相続税の特例を利用した税負担の軽減方法を考慮した遺言内容を提案できます。
有効な形式か確認してもらえる
税理士などの専門家に確認してもらうことで、遺言書が無効になることを防げます。
相続税対策についても相談できる
相続税負担が心配な方は、相続税対策についても税理士に相談できます。遺言書作成段階から早めの対策をしておくことで、円滑な相続が実現できるでしょう。
適切な遺言書の作成は専門家に相談を
遺言書の作成は誰にでもできますが、適切な内容で、確実に有効になる形式のものを作成するとなると、難しいものです。
少なくとも相続税負担の確認や、内容の正確さ、必要な形式が守られているかなどについては専門家のチェックを受けたほうが良いでしょう。
遺言書の作成は、税理士などの専門家への相談を検討してみてはいかがでしょうか。