相続登記申請書の書き方~自分で作る!登記申請書作成マニュアル
登記申請は専門家でなければできないのではないかと思いがちですが、そんなことはありません。相続そのものや不動産の権利関係が複雑でなく、根気と時間があれば自分自身で手続きすることは充分可能です。 しかし、いざ手続きをし始めたときにつまずくのが、登記申請書の書き方です。ここでは、慣れていないと複雑で難しい、登記申請書の書き方について詳しく解説します。
相続における登記申請書の様式
登記申請書を作成するにあたり「申請用紙をどこでもらえるのか?」という疑問を持たれる方がいらっしゃるかもしれません。しかし「登記申請書」という専用の用紙があるわけではなく、コピー用紙等に適宜作成します。だからと言ってフリースタイルでいいというわけではありません。記載すべき項目も指定されているので、まずは下記の雛形を参照してください。
法定相続分により相続した場合の所有権移転登記の記載例
Wordファイル「相続登記申請書の記述例.docs」が以下からダウンロード可能です。是非、ご活用ください。
相続登記で抑えるべき登記申請書の記載事項
様式の雛形を見ただけではよくわからないと思いますので、ここからは登記申請書に記載する各項目について解説していきます。難しい登記用語が並びますが、相続登記をスムーズに完了させるため、項目一つひとつの意味を理解しながら作成しましょう。
登記申請書記載項目
1)様式タイトル
一行目には「登記申請書」と記載します。
2)目的
今回の登記の目的のことです。相続登記の場合は、故人(被相続人)が所有していた不動産の権利が相続人に移ることを意味する「所有権移転」と記載します。この例では、広場一郎さんが単独で所有していたものとしています。共有していた場合には「広場一郎持分全部移転」と記載します。
3)原因
登記が必要となった原因と、それが発生した日時です。相続登記の場合、ここに記載する日付は相続が開始した日、すなわち登記する不動産を所有していた方が亡くなった日です。
4)相続人
被相続人の氏名を記し、その下に当該不動産を相続する人の氏名、住所、連絡先電話番号を記載します。登記申請書に住民票を添付するので、住民票にかかれている住所を正確に記載しましょう。相続人が複数いる場合は、持分の記載が必要です。この項目の最後には、登記申請に関する質問などに対応できる方の電話番号を記載します。
5)添付書類
相続登記には、戸籍謄本や住民票などたくさんの書類を添付する必要がありますが、ここには「登記原因情報」「住所証明情報」とのみ記載します。
6)申請日と法務局名
法務局の窓口に提出する日、郵送する場合は発送日と、提出先の法務局名を記載します。提出先は、登記する不動産が所在する土地を管轄する法務局です。管轄の出張所名まで正確に記載しましょう。
7)課税価格
登記申請の手数料にあたる、登録免許税を計算する際の基礎となる金額です。固定資産評価証明書に記載の固定資産税評価額の、千円未満を切り捨てた金額を記載します。登記する不動産が複数ある場合は、合算した後、千円未満を切り捨てます。
8)登録免許税
登記申請にかかる手数料に該当する金額です。「課税価格」に0.4%を掛け、百円未満を切り捨てた金額を記載します。窓口提出か郵送の場合、これと同額の収入印紙を、後述する登録免許税印紙貼用台紙に貼ることで納税します。
9)不動産の表示
土地の場合は登記する不動産の所在、地番、地目、地積を、建物の場合は所在、家屋番号、種類、構造、床面積を、登記事項証明書の通りに記載します。登記事項証明書に記載されている“不動産番号”を記載する場合は、所在や地番などを省略することができます。
〈参考・法務省HPより〉
登記申請書作成にあたっての注意事項
1)登記申請書の用紙について
白いA4サイズの紙を使用し、縦置き、横書きで作成します。パソコンなどで作成してもいいですし、手書きでも受け付けてもらえます。
2)申請書上部に空欄を設ける
申請書の上部は、5~7センチ開けたところから書き始めます。この部分は法務局で使用されます。
3)印鑑は認印
登記申請書の相続人の欄に押印する印鑑は、実印である必要はありません。相続人それぞれの認印を押印します。
4)収入印紙貼付台紙
登記申請書とは別にA4サイズの白紙を1枚用意し、登録免許税相当額の収入印紙をそこに貼付します。割り印や消印をすると無効になります。
5)連絡先電話番号
書類に不備があった際には、法務局の担当登記官から電話で問い合わせがあります。外出していることが多い方であれば、相続人欄に記載する電話番号は携帯電話の番号がいいでしょう。
6)複数の登記は1枚の登記申請書にまとめられない
登記申請は1つの不動産に1枚の申請書が原則です。ただし、登記の目的、原因、当事者が同じで、登記する不動産の所在が同じ法務局の管轄である場合には、複数の不動産を1枚の申請書で登記することができます。
相続登記申請書の綴じ方
相続登記には、登記申請書の他に相続が開始されたことの証明や、相続人の住所確認などのため、住民票や戸籍謄本などの添付書類が必要です。登記申請書が完成し添付書類が揃ったら、申請書と添付書類それぞれの写し(コピー)を用意しましょう。写しはすぐに出せるところに保管しておくと、法務局から問い合わせがあったときにすぐ対応することができます。
住民票や印鑑証明書など、相続税の申告などでも使用できる書類については、写しに「原本と相違ない」旨の記載があれば返却してもらうことができます。また、被相続人と相続人の関係をあらわした「相続関係説明図」を添付すると、戸籍謄本の原本を返却してもらうことができます。
登記申請書と添付書類がすべて揃ったら、いよいよ提出準備です。決まりごとではありませんが、一般に登記申請書の原本を一番上にして、原本の返却を受けない書類、返却を受ける書類の写し、返却を受ける書類の原本の順に重ねます。具体的には、次の順序で綴るといいでしょう。
1)登記申請書の後ろに収入印紙貼付台紙を重ね、ホチキスで綴じて書類の綴じ目に契印します。そして収入印紙貼付台紙には、登録免許税相当額の収入印紙を貼ります。
↓
2)原本の返却を受けない、相続関係説明図を1)の後ろに重ねます
↓
3)原本の返却を受ける書類(印鑑証明書、住民票、固定資産評価証明書など)の写しをまとめてホチキスで綴じ、はじめの1枚に「原本に相違ありません」の記載をします。そして、それぞれの書類の綴じ目に契印し、2)の後ろに重ねます。
↓
4)1)~3)までの書類を大きめのホチキスで綴じます。
↓
5)登記が完了したら返却を受ける書類の原本を、まとめてホチキスで綴じます。
↓
6)4)の書類一式の下に5)の書類を重ね、大きめのクリップでまとめます。
申請書類の重ね順については、下記のイラストを参考にしてください。
これで、相続登記申請に必要な書類が提出できる状態になりました。申請にあたっては、なるべく法務局の窓口に持参する方がいいです。書類に不備があった場合などには、その場で解決できることがあります。
遠方などの理由により郵送で申請する場合は“不動産登記申請書在中”と赤文字で明記し、書留郵便で送付します。その際、切手を貼付した返信用封筒を必ず入れるようにします。返信用封筒には「本人限定受取」の記載をしておくといいでしょう。
複雑な相続では登記申請書の作成が難しい
相続の登記申請書は、案外簡単にできそうだと思われたでしょうか。今回は、2人の相続人が法定相続分で相続したと仮定して説明してきましたので、とてもシンプルな例です。このように相続自体が複雑でない場合でも、実際には添付書類を集めるだけでかなりの労力を要します。
そして自分で登記手続きを行った場合、申請後に登記がすんなりと完了することは稀です。法務局からの問い合わせの電話応対に始まり、書類の訂正(補正と呼びます)や不足で、何度も法務局に足を運ぶ手間を覚悟する必要があります。
また相続や土地、建物の権利関係が複雑なケースでは、登記はもっと複雑になります。貴重な時間を費やした挙げ句、登記ができなかったという事態になる前に、相続登記に詳しい専門家に相談することをおすすめします。