親の借金・債務の相続、正しい対処法は?
相続税はどれぐらいかかるのか、遺された現預金や不動産をどうやって分けたらいいかなど、相続に関する心配事はプラスの財産が中心になりがちです。しかし借金など、親がマイナスの財産を残して亡くなってしまったことで相続人同士が揉めるケースは、意外と多く見受けられます。借金など債務の相続には、早めの検討と対応が何より重要です。家族にとってベストな対応策を選択するため、経験豊富な相続の専門家に相談するようにしましょう。
亡くなった親に借金・債務が!相続手続きはどうなる?
親が亡くなり、借金があることが発覚。子どもの立場からすると、現預金や不動産などの資産は相続したいけれど、借金などの債務はできれば引き継ぎたくないと思うものです。実際のところ、資産だけを相続することはできるのでしょうか。
遺産相続のしくみ
人が亡くなると、故人が生前に持っていた権利や義務を相続人が引き継ぐことになります。故人(被相続人)の財産、債務を相続するのは、故人の配偶者や子どもなど、一定範囲の血族からなる法定相続人です。
預貯金や不動産などの財産は、遺言による指定がない場合には相続人同士の話し合いによって分け方を決めます。例えば、配偶者がすべての財産を相続することも可能です。しかし借金などの債務は、相続人同士の話し合いで特定の一人が引き継ぐことに決定したとしても、債権者は相続人それぞれに法定相続分に応じた額を請求することができます。
つまり、財産だけを相続して債務から逃れるということはできないのです。
住宅ローンが残っていた場合
消費者金融や銀行のカードローンは無いが、親が住宅ローンを残して亡くなってしまった場合はどうなるでしょうか?親が住宅ローンを組むと同時に団体信用生命保険に加入していた場合には、残債は保険金から支払われるため、ローンを引き継いで支払っていく必要はありません。なお、ほとんどの住宅ローン利用者が団体信用生命保険に加入していると言われています。
亡くなった親が借金の保証人だった場合はどうなる?
相続の対象となる債務には、銀行などからの借金や未払いの治療費、税金の未納分などの他に、他人の借金の返済を保証する「保証債務」も含まれます。いわゆる“借金の保証人”の義務です。
単なる“保証人”と“連帯保証人”では負うべき義務の範囲が大きく異なります。借金をしている本人の代わりに返済を求められたとき、保証人であれば「まずは債務者に請求してください」と主張することができますが、連帯保証人はその要求に応じなければなりません。誰かの連帯保証人になった親が亡くなってしまったら、それを相続した子どもが他人の債務返済義務を負います。
自分が連帯保証人であることを隠したまま亡くなってしまうことも多く、相続手続き後何年も経ってからその事実が発覚することがあります。その場合は、次にご紹介します「相続放棄」が可能かどうかを家庭裁判所に相談することをおすすめします。
親の相続財産に借金・債務があったときの対処法
親に借金などの債務があった場合には、原則的に相続人はその債務を法定相続分で相続します。例えば父親が2,000万円の借金を残して亡くなり、母親と子ども2人で相続するとしたら、母親が1,000万円、子どもがそれぞれ500万円ずつを引き継ぐことになります。
しかし「自分の財産を削ってまで、親の借金の返済義務を負いたくない」というときには、次の方法をとることができます。
相続放棄
家庭裁判所で相続放棄の手続きをすることで、相続人でなくなることができます。その場合、借金や保証債務を相続しないかわりに、現預金や不動産といった資産も相続できません。相続放棄の手続きができるのは「自己のために相続が開始したことを知ったとき」から3ヶ月以内です。
この期間を「熟慮期間」といい「自己のために相続が開始したことを知ったとき」とは、一般的に親が死亡した日を指します。何らかの事情で親との連絡が途絶えているケースでは、親が亡くなったことを知った日から3ヶ月以内ということになります。
相続放棄を家庭裁判所に申し立てた後は取り消すことができませんので、慎重に決断しなければなりません。相続放棄は、相続人ごとに手続きすることが可能です。
限定承認
相続する資産の範囲内で、借金などの債務を引き継ぐことです。(故人が残した資産と債務を無条件ですべて引き継ぐことを、単純承認といいます。)この方法なら、親の借金を相続したとしても、自分の財産を減らさずに返済することが可能です。またこの手続は、債務が資産よりも多いか少ないかがすぐにわからないときに有用です。
例えば、資産が1,000万円あることがわかっていて、債務の金額がわからないとします。限定承認の手続き後に2,000万円の借金があることが判明した場合、相続する資産と借金はそれぞれ1,000万円です。同じ例で、もし借金が500万円だった場合には、1,000万円の資産と500万円の借金を相続することになります。ただし限定承認は相続人全員で行わなければならないため、これに反対する相続人が1人でもいれば手続きできません。
また限定承認についても、「自己のために相続が開始したことを知ったとき」から3ヶ月以内の手続きが必要です。3ヶ月を経過してしまったときや、相続財産の全部または一部を処分してしまったときには、原則として相続放棄や限定承認を選択することができず、借金などの債務を法定相続分で相続することになります。
生前に債務整理をしてもらう
親に借金があることがわかっている場合には、生前に債務整理をしてもらうというのも一つの手です。任意整理や個人再生といった手続きをとることで、借金の残高を合法的に減らすことができます。しかしこれらの手続きを行った後、期限内に借金を完済することが難しい見通しである場合には、自己破産してもらうよう相談してみましょう。
ほとんどの資産が処分される代わりに、借金の大半が免除されます。毎月の返済がなくなることで、親自身の生活に余裕が生まれる可能性もあります。
相続発生前の調査が大切!親の借金・債務を調べる方法
いくら親子でも、借金をしているかどうか、また残債はいくらあるのかといった内容は聞きづらいものです。しかし過去に借金経験があることがわかっているなど、債務を相続する可能性が少しでもあるなら、借金の有無や残債額を生前に確認できた方が安心です。
生前の信用情報の開示請求
借入金額を調べるには「信用情報の開示請求」という方法があります。ただし、これは家族であっても勝手に手続きすることはできませんので、本人と一緒に行うようにしましょう。ローンやクレジットカードの利用履歴などを保存している「個人信用情報機関」には、次の3社があります。個人信用情報は、それぞれ1,000円で取得することができるので、3社とも開示請求しておくことをおすすめします。
株式会社日本情報信用機構(JICC) | 消費者金融・銀行系カードローンなど |
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株式会社CIC | 消費者金融・クレジットカード会社系など |
全国銀行個人信用情報センター(KSC) | 銀行関連カードローン |
信用情報を確認する前に亡くなってしまったら?
親が自分の信用情報を確認することなく亡くなってしまったときは、相続人が信用情報の開示を請求できます。借金の有無や残債の金額を明確にした上で、相続放棄をするか単純承認するか、限定承認するかを決めましょう。
3ヶ月で決めることが難しい場合には、「熟慮期間の伸長の申立」をすることができます。その場合、伸長する理由と期間を添えて、熟慮期間が経過する前に家庭裁判所へ申し出る必要があります。
親の借金・債務の相続は専門家にご相談を!
親の借金は親自身が生前に整理するというのが、子どもにとってはベストな対処法です。しかし、借金や保証債務の存在を隠して亡くなってしまうこともあります。債務の相続は発覚した時点によって打てる対策が異なり、家族にとって一番いい相続の形はそれぞれです。
相続放棄や限定承認などの手段をとるとすれば、限られた期間で決断を迫られるため、充分な知識を持った専門家のアドバイスを受けることがとても重要です。特に、相続開始後に借金の存在がわかった場合には、一日でも早く経験豊富な専門家に相談することをおすすめします。