遺産相続の基本 2024/11/6

相続時精算課税制度とは?贈与税・相続税対策におけるメリットとデメリット

相続時精算課税制度とは?贈与税・相続税対策におけるメリットとデメリット

相続時精算課税制度を利用すると2500万円まで贈与税が発生しないということで一見魅力的な制度に見えます。しかしメリットだけではなく多くのデメリットもあります。今回の記事では相続時精算課税制度のメリット、デメリットの両方を詳しく解説しています。

相続時精算課税制度ってどんな制度?

相続時精算課税制度とは文字通り、贈与する際には課税せずに「相続の時」に「精算」して「課税」する「制度」です。

相続時精算課税制度で2500万円まで贈与税がかからない

相続時精算課税制度を利用すれば贈与財産の種類を問わず2500万円まで贈与税はかかりません。

【贈与税・暦年課税/一般贈与財産用】(一般税率)
基礎控除後の課税価格 200万円以下 300万円以下 400万円以下 600万円以下 1,000万円以下 1,500万円以下 3,000万円以下 3,000万円超
税率 10% 15% 20% 30% 40% 45% 50% 55%
控除額 10万円 25万円 65万円 125万円 175万円 250万円 400万円

一方、従来の「暦年課税」を使用する贈与の場合、上記の表のように贈与額に応じて段階的に税率も上がっていきます。
仮に暦年課税を選択している状態で2500万円の贈与をすると945万円の贈与税がかかります。
計算方法:(2500-110万円)×50%-250万円=945万円

相続時精算課税制度を選択すれば2500万円まで贈与税はゼロ!

相続時精算課税制度を利用するための条件

この相続時精算課税制度は一定の条件のもと利用することができる制度です。

相続時精算課税制度を利用し贈与「する側」の条件

贈与する側の人は

  • 60歳以上(贈与した年の1月1日時点で)
  • 父母又は祖父母

でなければなりません。

相続時精算課税制度を利用し贈与「される側」の条件

  • 20歳以上(贈与を受けた年の1月1日時点で)
  • 贈与者の直系卑属(子や孫)である推定相続人

※推定相続人とは現状の家族構成で亡くなったときに想定される相続人のこと

贈与する側 贈与される側
60歳以上 20歳以上
父母又は祖父母 直系卑属(子や孫)

それぞれの条件を満たしている場合のみ相続時精算課税制度を使うことができます。

相続時精算課税制度を利用する際の注意点

2500万円を超える部分に対しては20%の税率がかかる

相続時精算課税制度を利用すると2500万円まで贈与税がかかりませんが、2500万円を超える部分に関しては一律で20%の贈与税が課税されます。

相続時精算課税制度を一度選択すると変更できない

贈与税には暦年課税と相続時精算課税がありますが、この相続時精算課税を一度選択すると、その年以降の贈与の課税方法は全て相続時精算課税となります。一度選択するとそれ以降変更することはできません。

相続時精算課税制度を利用すると将来相続税として課税される

相続時精算課税制度を利用すると贈与税が2500万円まで課税されませんが、その課税されなかった2500万円に関しては将来相続の際に相続財産に2500万を足した金額に対して相続税が課税されます。この相続時精算課税制度は節税ではなく税金の支払いを「先延ばし」にしている制度とも言えます。

相続時精算課税制度を利用する6つのメリット

ではどのような場合にこの相続時精算課税制度を選択したらよいのでしょうか?相続時精算課税制度を利用するメリットは6つあります。

①相続時精算課税制度を使って早期の財産移転が可能に

暦年課税で贈与する場合、贈与税が課税されない非課税枠「110万円」以下で毎年贈与していくと2500万円の財産を移すのには25年もの期間がかかってしまいます。しかし相続時精算課税制度を選択すれば同額を1年で財産移転することができます。早期にどうしても財産を移転したい場合には有効な制度と言えます。

②相続時精算課税制度を利用した相続税対策

賃貸マンションなどの毎年収益を上げる「収益物件」を早い段階で贈与することによって相続税対策をすることができます。贈与せずに収益物件を持ち続けていると、毎年将来の相続財産(現預金)が増え続け、結果的に将来支払う相続税額が膨れてしまいます。事前に収益物件を贈与しておくことで贈与後の不動産収入は受贈者が受け取ることになりますので、将来支払う相続税を節税することが可能です。

③将来値上がりする財産がある場合、相続時精算課税制度が有効

相続時精算課税制度を利用すれば将来土地の価値が上がった場合、その財産をまだ価値が低い段階で贈与することができたので結果的に節税効果があったということになります。しかし実際、将来その不動産価値が上がるかどうかを事前に判断することは難しいことかもしれません・・・。

④相続時精算課税制度を利用して遺族間の相続争いを防ぐ

生前、贈与者が元気で判断力があるうちに自分の意思で贈与をしておくことにより相続の際の遺族間のトラブルを防ぐことができます。相続の際に遺族間でトラブルが起こる要因のひとつは被相続人が「その場にいない」こと。相続時精算課税制度を利用した贈与は被相続人が生きていて元気なうちに本人の判断で贈与するわけですから相続時の遺産協議におけるトラブルをある程度回避することができます。

⑤相続時精算課税制度の贈与税率は一律20%

贈与税は暦年課税を選択した場合、累進課税で贈与額が上がれば上がるほど税率も上がります。暦年課税ですと税率は最大で55%にもなります。一方相続時精算課税制度を選択した場合は2500万円を超える部分に関しての税率は一律で20%となります。つまり2500万円以上いくら贈与したとしても贈与に係る税率を20%に抑えることができます。

⑥相続時精算課税は将来相続財産が基礎控除以下の場合に有効

相続時精算課税制度を使用して特に効果を発揮するのは、相続時精算課税を使用したとしても相続財産が「基礎控除以下」になるケースです。
※基礎控除:3000万+(相続人の人数×600万)

この場合、贈与時も相続時にも税金を発生させずに財産を移転させえることができますので相続時精算課税制度は有効です。

相続時精算課税制度を利用する6つのデメリット

①一度相続時精算課税制度を選択すると暦年課税制度に戻せない

相続時精算課税制度を選択する一番のリスクは、一度でも相続時精算課税制度を選択するとそのあと一切「暦年課税制度」に戻すことができなくなるということです。相続時精算課税制度を選択した後にやっぱり暦年課税制度の方が良かったと思っても戻すことができません。

②相続時精算課税制度を選択したあとは贈与の際必ず申告が必要になる

暦年課税制度には110万円/年の非課税枠があり、110万円以下の贈与であれば「税金もかからず」「申告も不要」という納税者としてはありがたい制度があります。

しかし相続時精算課税制度には暦年課税制度にある110万円の非課税枠や申告不要の制度は設けられていないため、一度相続時精算課税制度を選択してしまうと、その翌年100万円の贈与をした場合でも贈与税の申告をする必要がありますし、非課税枠もないため納税義務も発生します。暦年課税であれば申告の必要がなかった少額の贈与だったとしても一度相続時精算課税制度を選択したあとは必ず申告が必要になってしまいます。

③相続時精算課税制度を選択すると小規模宅地等の特例を受けられない

相続時精算課税制度を利用して贈与された土地については「相続財産の対象」にはなりますがその際に「小規模宅地等の特例」を適用することはできません。小規模宅地等の特例を受けることができるのはあくまでも「相続または遺贈」により取得したものであり相続時精算課税制度は「生前贈与」となるため該当しません。

小規模宅地等の特例では最大80%土地の評価を下がることができる特例ですのでこの特例を使用できないというのは相続時精算課税制度を選択する際の大きなデメリットとなります。

④相続時精算課税制度を利用すると相続税の「物納」ができない

相続により発生した税金を相続人が延納によっても金銭で納付することが難しい場合、「物納」という選択肢が認められています。しかしこの物納する財産については「相続で取得した財産」という条件があります。

そのため相続時精算課税制度を利用した場合にはあくまでも「相続で取得した財産」ではなく「生前贈与で取得した財産」ですから相続税の支払いとして物納を選択することはできなくなってしまします。将来相続税の支払いを金銭で納付することが難しいと予想される場合には相続時精算課税制度を選択する場合注意が必要です。

⑤贈与と相続の登録免許税と不動産取得税は大幅に異なる

相続時精算課税制度を利用すると贈与としての扱いになりますので登録免許税の税率が上がり、不動産取得税もかかってきます。

  登録免許税 不動産取得税
相続 0.4%
贈与 2% 3%

登録免許税は相続の際には固定資産評価額に対し0.4%ですが贈与の場合には2%となり1.6%も上がります。また相続ではかからなかった不動産取得税も贈与では3%もかかってしまいます。相続時精算課税制度を選択することにより登録免許税や不動産取得税などの諸費用も多くかかってきますので注意が必要です。

⑥不動産の価値が下がる場合には損になる

相続時精算課税制度を利用して不動産価値が上がった場合には節税面でのメリットがありました。しかし逆に不動産の価値が下がった場合には、相続時精算課税制度を利用すると「不動産価値が高い時点で税金を払ってしまっている」ため損をしてしまうことになります。

相続時精算課税制度に代わる制度を検討してみる

相続時精算課税制度を利用しなくてもその他の制度で似たような効果を発揮する制度があります。

教育資金の一括贈与

30歳未満の方が直系尊属(父母、祖父母)から教育資金のために贈与を受ける場合には、一定の条件のもと教育資金非課税申告書を提出することにより「1500万円」まで非課税となります。

30歳になるまでに受け取った教育資金を使い切らなければ残った額に対しては贈与税がかかってしまいますが、孫に直接贈与でき将来の相続税の節税対策にもなるため今注目されている制度です。
※教育資金の一括贈与は平成31年3月31日まで利用することができます。

住宅取得等資金贈与の非課税制度

直系尊属から住宅取得資金として20歳以上の直系卑属(子、孫)に贈与する場合、一定の条件のもと最大で3000万円まで非課税になるという制度です。相続時精算課税制度との大きな違いはこの贈与した額に関しては相続の際に相続財産として加算されることはありません。
※住宅取得資金贈与の日課税制度は平成33年12月31日まで利用することができます。

このような近年新設されている贈与の非課税制度を利用すれば、先ほどあげた相続時精算課税制度のデメリットをより少なくしながら多額の贈与をすることができます。相続時精算課税制度を選択する前にこのような新設の贈与に関する制度を一度検討してみても良いでしょう。

【まとめ】相続時精算課税制度の選択は慎重に

今回は相続時精算課税制度についてメリットとデメリットをご紹介しました。また相続時精算課税制度に類似する贈与税非課税制度についてもご紹介しました。

相続時精算課税制度は一見「2500万円」まで非課税で贈与できる魅力的な制度のように思えます。しかしその裏にはたくさんのデメリットもあるので注意しなければなりません。また類似の制度もありますので、まずはそちらの制度を利用することができないかを検討すると良いでしょう。

相続時精算課税制度は一度選択してしまうと変更することはできない制度です。相続時精算課税制度を利用したい場合には税理士によく相談してから慎重に判断するようお勧めします。

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