婿養子へ相続するには?実親の相続権はどうなる?
「事業を継いでくれた婿養子へ相続させたい」「娘の死後も長年介護してくれた婿に相続させたい」など、他人ではあっても家族同然の婿養子に相続させたいと考える方は多いでしょう。そこで今回は、婿養子の相続について、メリット・デメリットなども交えて解説します。
婿養子への相続はできる?
養子縁組をした婿養子への相続
婿養子は、養子縁組をしていれば法定相続人となり、相続ができます。一般に婿養子というのは、「養子縁組をした婿」のことを指し、妻の姓を名乗っているだけで妻の両親と養子縁組をしていない場合は「婿」などと呼びます。
どちらの姓を名乗っても相続には関係しない
夫と妻のどちらの姓を名乗るかは、婚姻時に自由に決められます。そして配偶者の姓を選んだとしても、配偶者の親と親子関係になるわけではありません。
日本では、ほとんどの夫婦が夫の姓を選択するため、妻の姓を名乗ることが特別視されることもあります。しかし実はどちらを選択したとしても相続の条件は変わりません。
「結婚して夫の家に入る」、「妻の苗字になって婿養子に入る」などと表現することがありますが、これらは昔ながらの表現が残っているだけで、法的には婚姻によって相手の両親と親子関係が結ばれることはないのです。
そのため、いわゆる「婿入り」をしても、妻の両親と正式に養子縁組をしない限り婿養子として法定相続人にはなれません。
婿養子の相続割合
養子縁組をした婿養子には、実子と同じように相続の権利があります。相続割合も同じです。
婿養子の相続割合(被相続人に配偶者がいる場合)
法定相続人 | 法定相続割合 |
---|---|
配偶者 | 1/2 |
子(長女) | 1/4 |
婿養子(長女の夫) | 1/4 |
婿養子の相続割合(被相続人に配偶者がいない場合)
法定相続人 | 法定相続割合 |
---|---|
子(長女) | 1/2 |
婿養子(長女の夫) | 1/2 |
婿養子のメリット
婿を養子にするメリットは確実に相続をさせられることですが、法定相続人が増えることで税負担が減るというメリットもあります。
相続税の基礎控除額は法定相続人の人数で決まります。婿を養子にすると基礎控除額が600万円増え、死亡保険金や死亡退職金の非課税枠も500万円ずつ増えます。
前述の配偶者がいない場合の例では、基礎控除額が3,600万円から4,200万円に増え、死亡退職金や死亡保険金の非課税限度額は500万円から1,000万円に増えます。
この記事のポイント
相続税の基礎控除額の計算式
3,000万円+600万円×法定相続人の数=基礎控除額
また、相続税は累進課税ですから、妻一人で相続するよりも、婿養子である夫も相続した方が、税率が下がる可能性があります。
相続税の速算表(平成27年1月1日以後)
決定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
※国税庁公式ホームページより抜粋
養子縁組をしていない婿に相続させるには
養子縁組をしていない婿には相続する権利がありません。被相続人の配偶者や子が他界していて他に相続人がいなかったとしても、基本的には相続権を取得できません。
遺言で遺贈
養子縁組をしていない婿に相続をさせたい場合は、遺言書で遺贈することができます。遺贈では他に法定相続人がいる場合、遺留分といって法定相続人の最低限の取り分は侵害できません。
もし遺留分を侵していた場合はあとで請求されるリスクがあります。ただし、被相続人の兄弟姉妹には遺留分がありません。
特別縁故者として相続
遺言書がない場合でも、婿と亡くなった方が生計を共にしていた場合などは、特別縁故者として相続できるケースもあります。ただし、法定相続人が1人もいない場合に限られます。
相続税負担に注意
遺贈の場合も特別縁故者としての相続も、法定相続人として相続した場合よりも相続税の負担が増えます。
基礎控除などの各種控除がない上に、2割加算といって法定相続人へ課税される相続税よりも2割増しの負担になります。
婿養子は実親の相続もできる?
養子縁組をしても実親との関係は消えない
妻の両親と養子縁組をしたとしても、実の親との親子関係は続きます。相続権もそのまま残りますから、婿養子になった場合、妻の両親と実親両方から相続できることになります。
扶養の義務も2重
実親と養親、両方と親子関係になりますから、扶養の義務も両方に生じます。
婿養子の相続権と扶養義務
相続権 | 扶養義務 | |
---|---|---|
実の両親 | あり | あり |
妻の両親(養親) | あり | あり |
婿養子への相続で注意したいこと
娘以外に実子がいる場合
娘婿と養子縁組をすると、他の相続人の相続割合が減ることになります。婿養子の妻である娘以外に実子がいる場合には反対される可能性もありますから、注意が必要でしょう。取り分が減るばかりか、一人の子にばかり相続財産が集中するようにもとられかねないからです。
配偶者がなく、子が長女と長男の2人だった場合、相続分は1/2ずつとなります。もしも長女の夫が養子になった場合、長女とその夫が2/3、長男は1/3という割合になり、長男の取り分が大幅に減ってしまいます。
婿養子の相続割合(被相続人に配偶者がなく実子が2人いる場合)
法定相続人 | 法定相続割合 |
---|---|
子(長男) | 1/3 |
子(長女) | 1/3 |
婿養子(長女の夫) | 1/3 |
他の子らからしてみれば、当然のごとく生じると思っていた相続の権利が婿養子の存在によって減少するわけですから、納得できないケースもあるでしょう。
相続の2重資格
もしも婿養子の妻である長女が亡くなり被相続人となった場合、婿養子は長女の配偶者という立場と、兄弟姉妹という2つの立場から相続権があります。
これを相続の2重資格といいますが、このケースでは配偶者としての相続資格が優先されます。
長女(婿養子の妻)が被相続人(両親と祖父母がすでに他界・兄が1人いる)のケース
法定相続人 | 法定相続割合 |
---|---|
婿養子(長女の夫) | 3/4 |
兄弟姉妹(長女の兄) | 1/4 |
婿養子は長女の兄弟姉妹にもあたりますが、法定相続割合は配偶者としての3/4のみです。その他の場合の2重資格では、それぞれの相続資格で得た相続割合を合算します。
例えば長女と婿養子がすでに他界していて、孫が代襲相続するケースなどです。
被相続人の孫が代襲相続する(婿養子と長女がすでに他界している)ケース
法定相続人 | 代襲相続人 | 法定相続割合 |
---|---|---|
婿養子 | 孫(2重資格者) | 1/3+1/3=2/3 |
長女 | ||
長男 | - | 1/3 |
万が一、子が全員他界してしまっており、代襲相続が発生した場合には、同じ孫という立場でも長女の子と長男の子では取り分が倍も違ってしまいます。
2重資格の法定相続人がいる場合の基礎控除額の計算
基礎控除額の計算などに用いられる法定相続人の人数には、実数を使います。つまり2重資格があっても、基礎控除は1人分しか受けられないということです。
娘と婿養子が離婚してしまったら
娘と婿養子が万が一離婚してしまったら、それまでのような親子関係を続けることは難しいかもしれません。しかし、養子縁組は離婚によって解消されませんから、双方同意の上で離縁という手続きをする必要があります。
離縁をしていなければ、離婚後も婿養子は養親の法定相続人になります。遺言で他の相続人にすべての財産を遺すと指定しても、婿養子は遺留分を請求できますから注意しましょう。遺留分は法定相続分の1/2です。
婿養子の遺留分(被相続人に配偶者がいない場合)
法定相続人 | 法定相続割合 | 遺留分 |
---|---|---|
子(長女) | 1/2 | 1/4 |
婿養子(長女と離婚した夫) | 1/2 | 1/4 |
婿養子の相続は税理士に相談を
婿養子の相続は税金の負担が減る可能性がある一方で、他の相続人の理解を得られないと相続トラブルに発展する恐れもあります。
他の相続人が感じるであろう不公平感に対処できるのか、慎重な判断が必要でしょう。また、万が一被相続人の娘と婿養子が離婚してしまった場合にはどうするのかなど、さまざまなケースを想定しておくことも重要です。
婿養子の相続で困ったら、税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。