自動車の相続に必要な手続き~故人の車に相続税はかかる?
相続財産となるのは、現金や預金などの金融資産、家や土地などの不動産だけではありません。亡くなったご家族は、車を所有していませんでしたか?故人から引き継いだ車は、相続財産として相続税の申告対象になります。そして相続税の申告以外にも、必要となる手続きがあります。
車を相続したら、どうすればいい?
車を相続した場合、相続税の申告をするだけでなく名義変更の手続きも必要です。名義を変更しないまま乗り続けていても法的なペナルティはありませんが、廃車や売却ができなかったり借金の担保にできなかったりと、後々になって困る場合があります。相続と同時に、名義変更を早めに済ませてしまいましょう。
車の名義変更の流れ
相続により車を取得した際、次の手順で名義変更をします。他の相続手続きと同様に、必要な書類を集めるのが一番の手間ですが、一つひとつしっかりと手順を確認しましょう。
- 車の名義を確認する
- 車を相続する人を決める
- 陸運支局、税事務所で名義変更の手続きをする
- 自動車保険の手続きをする
車の名義を確認する
車の中に保管してある車検証の、所有者欄の名義を確認しましょう。名義が故人である被相続人であれば、そのまま次のステップに進みます。故人が自動車ローンを組んでいて、所有者が信販会社である場合には、所有権解除後に名義変更の手続が必要です。
車を相続する人を決める
他の相続財産と同様に、遺産分割協議にて故人が遺した車を特定の相続人が引き継ぐのか、相続人全員の共有財産にするのかを決めます。遺産分割協議の結果を遺産分割協議書に明記し、相続人全員が署名押印します。
陸運支局、税事務所で名義変更の手続きをする
必要な書類を揃えて、陸運支局の窓口で手続きをします。その際、手数料の印紙代500円程度と移転登録申請書(OCRシート)代40円がかかります。そして自動車税の名義変更も必要です。各都道府県の税事務所が陸運支局に隣接されていますので、同日に済ませることができます。自動車税申告書代200円程度がかかります。
自動車保険の手続きをする
保険契約も相続財産として相続人が引き継ぎますので、任意保険の名義変更手続が必要です。契約者と記名被保険者が同一人物かどうかで必要な手続きが異なりますので、契約している保険会社に確認しましょう。
オートローンやリース契約だった場合
故人が車をローンで買っていたり、リース契約にしていたりしたケースもあります。そうした車を相続する場合には、その後の支払い方法について、信販会社などに相談することになります。まずは故人が契約していた信販会社などに連絡し、残債がどれぐらいあるのかを確認しましょう。相続人が車を引き継いで乗る場合でも、残っているローンを一括で払うよう、要求されることが多いようです。
残債が多いなどの理由で、車を相続したくないという場合があります。そのときは、信販会社などに車を引き取ってもらい、換価処分してもらいます。それでも残債が残る場合は、法定相続人に対して支払いを求められます。こうした理由から、故人がローンやリースを組んでいた車については債務も含めて相続するか、相続放棄を選択するかの検討が必要です。
車の相続手続きに必要な書類
相続により取得した車の名義変更を行う場合、新車や中古車をディーラーなどから買ったときとは、手続きで必要になる書類が異なります。車を一人の相続人が相続する場合と、複数で共有する場合について、名義変更のために必要な書類を整理してみましょう。
一人の相続人が相続する場合
相続人同士が協議し特定の一人が相続する場合には、次の書類が必要になります。
移転登録申請書・自動車税申告書
陸運支局と税事務所の窓口で購入する申請用紙と申告書です。詳しい記載例が掲示されていますので、これを入手するためだけに、事前に支局や税事務所に出向く必要はありません。
名義変更をする車の車検証
亡くなった方が所有していた車の車検証を用意します。普段は車の修理点検や保険加入の際に用いますが、相続手続きでも必要になります。
被相続人(故人)の戸籍謄本
亡くなった方の死亡が確認できる書類として、戸籍謄本または除籍謄本(いずれも戸籍全部事項証明書)を取り寄せます。
相続人の戸籍謄本
車を相続する方の戸籍謄本も必要です。ただし、相続人の戸籍が被相続人(故人)と同一の場合には、被相続人の戸籍謄本のみ用意すれば事足ります。
相続人の印鑑証明書
車を相続する方の住民票がある市区町村役場で、印鑑証明書を取得します。発行後3ヶ月以内のものである必要があります。
車庫証明書
相続した車の保管場所を明らかにするため、車庫証明書を用意します。管轄の警察署に申請すると、証明書の発行をしてもらえます。なお、相続する方の住所が被相続人と同じ場合には必要ありません。
遺産分割協議書
相続人全員の協議により、被相続人の車を特定の相続人が相続することになったことを証明するため、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書には、他の財産についての分割協議の内容も記すことにます。車に関しては、車名、登録番号、型式、車台番号について、漏れのないように記載しましょう。
ただし相続人が一人しかいない場合や、相続する車が軽自動車の場合には、遺産分割協議書の作成は必要ありません。なお、車の査定額が100万円以下の場合には、遺産分割協議成立申請書で代用できます。その際、査定額が100万円以下であることを証明する書類が必要です。
遺産分割成立申請書の例
委任状
車を取得する本人が申請手続きに行かれない場合には、第三者に申請を委任することができます。その際、車を相続する方の実印を押した委任状が必要です。
複数の相続人が相続する場合
故人の車を複数の相続人で共有する場合も、用意する書類は基本的に一人で相続するときと同じですが、次の点について違いがあります。
相続人全員の印鑑証明書
印鑑証明書は、相続人全員のものが必要になります。この場合も、発行から3ヶ月以内のものであることが条件です。
相続人全員の委任状
申請手続きを第三者に委任する場合には、相続人全員の実印を押した委任状が必要です。
車の相続税評価額はどうやって算定される?
相続税は相続財産に対してかかる税金ですから、それぞれの遺産にどれぐらいの価値があるかを見積もる必要があります。これについて相続税法では、原則として被相続人が死亡した日(相続開始日)の“時価”と規定されています。何をもって“時価”とするのかが難しいところですが、国税庁が公表している「財産評価基本通達」では、それぞれの財産についての評価基準が示されています。
例えば土地や家屋などの不動産、上場株式などの有価証券については、計算方法にいたるまで細かな規定があります。しかし、車については個別に評価方法が示されておらず「一般動産」として扱われます。相続税における一般動産の評価方法については、次の2通りがあります。
売買実例価格による評価
一般動産における時価の考え方は、市場で実際に売買されている実例価格、またはその動産に精通している人の意見を参考にして決めるというものです。具体的には、中古市場における売買価格や中古品取扱業者の査定額です。
車の場合には、オークションや中古車ディーラーで取引されている価格が参考になります。相続する車と車種や年式、走行距離などの条件が近いものを探してみましょう。中古車買い取り業者に査定を依頼するのも便利です。多くの業者では、インターネットで簡単に査定してくれます。
減価償却による評価
相続する一般動産があまり出回っておらず、市場の売買実例を参考にできない場合には、新品の価格から亡くなるまでの間の、経年や使用による価値の減少分を差し引く(減価償却)方法によって計算することも可能です。車の評価には、売買実例を用いるのが現実的です。
車の相続手続きは忘れがちで、意外と面倒
遺産を相続した場合、多くのものについて名義変更が必要です。故人の名義にしたままでも法的な罰則はありませんが、後々トラブルになることも充分に考えられますので、遺産分割協議や相続税申告が終わったら、速やかに手続することをおすすめします。
預金や不動産の相続については、名義変更の手続を忘れてしまうことはあまりないようですが、車や有価証券、ゴルフ会員権、電話加入権などについては見落としがちです。相続税の申告を依頼した税理士に相談して、漏れのないように手続きしましょう。
ただ、車の名義変更にはさまざまな書類の用意と、陸運支局での手続きが必要です。行政での手続きに慣れていない方ですと、かなり面倒に感じられるかもしれません。その場合は行政書士に代理を依頼するとスムーズです。相続税の申告を幅広いネットワークを持った税理士に依頼すれば、必要に応じて行政書士などの専門家を紹介してもらうことができます。