相続税の節税方法 2024/11/6

信託を活用した相続~節税に有効?信託による相続手続きのメリットとデメリット

信託を活用した相続~節税に有効?信託による相続手続きのメリットとデメリット

「相続対策として信託が有効」ということを聞いたことがありますか?信託は一体どういった部分で有効なのでしょうか?本当に相続税の節税につながるのでしょうか?信託にも様々な種類があるため、一口に「信託」と言っても様々な誤った理解があります。今回の記事では相続税に有効な信託として注目を集めている家族信託について、また信託による相続手続きのメリットとデメリットについてご紹介していきます。

信託を利用することが節税対策になるわけではない

近年では相続対策として「信託」を利用するケースが増えています。しかし信託におけるよくある誤解は、信託自体が相続の「節税対策」になるというものです。

実際は信託という行為自体が相続の節税対策になるというわけではなく、信託を相続対策として使う主な理由は財産の円滑な承継ができる、というものです。

相続に関連した信託の種類

相続に関連する信託は大きく分けて商事信託と民事信託があります。

信託の種類
商事信託 民事信託(家族信託)

商事信託」は銀行や信託会社が信託報酬を得て行うものを言います。

一方、民事信託は報酬を得ないで行う信託のことを言います。

2007年に行われた信託法改正により信託がより行いやすくなり、民事信託の中でも特に家族に財産を託す「家族信託」が注目を集めています。

この家族信託の登場により、現在ではより柔軟な財産管理が可能となりました。

信託による相続対策におけるメリット

信託を利用することにより、相続対策として以下のことを行うことができます。

  1. 財産管理
  2. 受益者の連続
  3. 遺言書の補完

信託を利用した財産管理

信託を利用することで委託者の財産管理を行うことができます。財産管理の方法としては信託の他に「成年後見人制度」があります。しかしこの成年後見制度にはいくつかのデメリットがあります。具体的には以下のようなことです。

  • 節税対策が制限される
  • 積極的な資産運用はできない
  • 毎年の家庭裁判所への報告義務

相続税の節税対策が制限

成年後見人制度には様々な「制限」があります。例えば成年後見制度を利用して成年被後見人となると、生前贈与によって財産を移転することはできません。つまり贈与を活用した節税対策は行えなくなります。

また相続税の納税資金対策として生命保険の死亡保険金を活用するケースもあります。これについても成年被後見人となると生命保険契約は難しくなります。更に養子縁組による基礎控除を使った節税対策がありますが、養子縁組も成年後見人だからと言って行うことはできません。

積極的な資産運用はできない

成年後見人制度を利用している場合、積極的な資産運用、例えば株や債券等によって資産を運用することはできません。成年後見人制度ではあくまでも「本人の財産を守る」ためのものです。「リスクを負い積極的に本人の財産を増やす」ということはできません。

毎年の家庭裁判所への報告義務

成年後見人等の重要な義務として、家庭裁判所への報告義務というものがあります。半年から1年に1回、家庭裁判所の指示に従って必要な報告を行います。金銭出納帳や通帳記帳、請求書や領収書の補完をしっかりと行い家庭裁判所に財産についての報告を行います。

家族信託の場合、委託者と受益者を親、受託者を子とすることで高齢な親の財産管理を子供が行うことができます。そして成年後見人制度のような様々な制限がないので、より容易に財産管理を行うことができるのです。

信託を利用する財産管理のメリットには

  • 信託契約で容易に始められる
  • 贈与による節税対策が可能
  • 積極的な資産運用が可能

などがあります。

近年では高齢者をターゲットとした巧妙な詐欺被害も増加していることから、それらの被害を避け、複雑な手順を踏まずに比較的容易に親の財産を安全に管理してあげられるということが信託を利用した最大のメリットと言えます。

信託を利用し受益者を連続させることができる

信託を利用することにより受益者を連続させることができます。具体的にどういったことかと言うと、親が亡くなった場合、その相続財産の処分に関しては「遺言」で指定することができます。しかし、更にその先の相続での財産の処分方法について遺言では特に指定することはできません。

例えば被相続人の長男に土地を相続し、更にその先の代(孫の代)でもその土地を守って欲しいような場合です。信託を利用することにより、当該受益者が死亡したとしても、その後予め指定された方に順次承継される旨を定めることもできます。

特に二次相続における弊害として「共有不動産」があります。二次相続で相続財産が共有不動産となってしまった場合、共同相続人全員が協力しないとその不動産は処分することができなくなり、そのような状況では「不動産の塩漬け」といった状況に陥りやすくなります。

その状況を信託を使い二次相続における財産の処分方法を指定しておくことにより防ぐことができます。

信託を利用し遺言書を補完することができる

信託を利用することにより相続財産を「受け取る方法」も指定することができます。つまり遺言書を補完することができます。

遺言では相続財産の「受け取り方」は特に指定することはできませんが、信託を利用することにより、例えば「毎月10万円ずつ受け取る」など、どのように財産を受け取っていくかも指定することができます。

例えば相続人の財産管理に不安があり、一時に財産を与えと心配というような場合には、信託による遺言書の補完機能が役に立ちます。

信託による相続対策におけるデメリット

相続方法として万能のように見える信託ですが、信託における相続対策のデメリットには

  1. 受益者にかかる税金
  2. 遺留分の侵害
  3. 受託者の責任が大きい

ということがあります。

複雑な税金計算

家族信託は節税に万能というわけではないのでもちろん税金はかかります。そして家族信託の税金に関する問題はより複雑になるので注意が必要です。

では家族信託をした場合、誰に、どのタイミングで税金が発生するのでしょうか?

まず家族信託に関わる人物には

  • 委託者
  • 受託者
  • 受益者

の三者がいます。それぞれの役割や立ち位置は以下の通りです。

委託者 財産管理を委託する人
受託者 財産管理を委託された人
受益者 財産管理により利益を受け取る人

税金は基本的に「利益を受け取る人」に対して課税されますので、家族信託で課税されるのはこの三者の内の「受益者」に該当する人のことを言います。

信託にまつわる税金には以下のようなものが含まれます。

  • 相続税
  • 贈与税
  • 所得税
  • 法人税
  • 登録免許税
  • 不動産取得税

信託で委託者・受託者が払う税金

委託者に課税される税金は基本的にはなく、受託者には「登録免許税」、「固定資産税」が課税されます。

しかしこの登録免許税の税率は信託の場合率が低くなります。従来の所有権移転登記の場合には固定資産税評価額に対して2%なのに対し、信託による所有権移転登記の場合には0.4%ですみます。

売買・贈与 税率2.0%
信託 税率0.4%

固定資産税に関しては名義が受託者になっているため支払通知書は受託者に届くのですが、実際の所有者は受益者ですので受託者は信託財産の管理費から拠出することができます。

この記事のポイント

受託者が払う税金
  1. 登録免許税
  2. 固定資産税(実質受益者が負担)

信託で受益者が払う税金

受益者に課される税金は委託者が受益者となる場合とそうでない場合によって異なります。相続対策としての信託をされる場合は大抵の場合が委託者=受益者となります。

この記事のポイント

委託者=受益者の場合

委託者=受益者の場合、受益者として納税する税金はありません。委託者と受益者が同一ですので、実質的には財産の移転も行われないため、「贈与税」や「不動産所得税」が課税されることはありません。

委託者≠受益者の場合

委託者≠受益者の場合には、信託財産の実際の所有権は「受益者」に移るのでそれに伴い税金が発生します。委託者≠受益者の場合には贈与税、相続税が発生します。

委託者の生前に家族信託契約が成立した場合には、委託者から受益者に対する贈与が発生したとみなされ贈与税が発生します。(相続対策として家族信託が行われる場合には通常「委託者=受益者」としている場合が多いので贈与税は発生しません。)

また委託者(受益者)の死亡により受益権が移転した場合には相続税が課されます。またその他、受益権が売買した場合、法人税や所得税が課税されます。

それぞれの課税関係をまとめると以下のような形になります。

受益者の死亡により受益権が移った場合 相続税
生前に受益権を無償で譲り受けた場合 贈与税
信託終了後の残余財産を受益者以外が取得した場合 贈与税
受益権が売買された場合 所得税または法人税

その他、不動産の贈与を受けた場合には不動産取得税が発生しますが、家族信託の場合には「受託者」に対して不動産取得税が発生します。

遺留分の侵害

相続において信託を利用する場合、いくら受益者だとしても遺留分を侵害することはできません。そのような遺留分の侵害が後々トラブルに発展することもあります。信託をする場合には遺留分を侵害していないか十分に注意しましょう。

遺留分とは、一定の範囲の法定相続人に認められる最低限の遺産取得分のことで、兄弟姉妹の法定相続人にその遺留分が認められています。もし遺留分を侵害しているのであれば、その侵害されている人は委託者と受託者に遺留分減殺請求を行使することができます。

受託者の責任が大きい

財産を信託するということは委託者の財産の名義が受託者に移るということです。委託者からの責任はもちろん、受託者の財産管理方法によっては将来の相続財産が少なくなってしまう、そのような恐れもあります。つまり家族信託の場合、受託者の責任がそれだけ重いものになってしまうのです。

信託監督人を立てることも

受託者はもちろん委託者の要望に最大限答える責任がありますが、受益者が未成年や高齢者、障害者等である場合、財産管理の判断能力に欠ける場合があるかもしれません。

そのような時には信託の目的が適切に行われているかを監督する「信託監督人」を立てることができます。しかし信託監督人自身が以下のような場合にはなることができません。

この記事のポイント

信託監督人になれない人
  • 未成年者
  • 成年被後見人
  • 被保佐人
  • 当該信託の受託者

受託者が十分に財産管理を行える状態ではない場合、信頼できる方や専門家を信託監督人として定めておくことも検討しましょう。

家族信託の専門家が少ない

家族信託自体、近年注目を集め始めている民事信託であること、また専門知識の幅が広いことなどから家族信託についての専門家はまだ多くありません。いざ相続対策として家族信託を検討しようという場合にも精通した専門家を探すのに苦労する場合があります。

どのような人が家族信託をするべきか

では家族信託を検討した方が良いのはどのようなケースなのでしょうか?具体的には以下のような場合に家族信託がその効果を発揮します。

  • 遺言を書くということには抵抗がある場合
  • 認知症になって財産管理が難しくなる可能性がある場合
  • 障害などの理由から子供が財産を相続した場合に管理できるか心配な場合

基本的に家族信託は管理する権利のみ受託者に渡し、利益をもらう権利だけは残しておく、という内容になるので上記のように管理能力が乏しいような場合に効果を発揮します。

相続対策としての信託の相談先

通常の信託(商事信託)の場合には銀行や信託銀行を利用するケースが多くなります。しかしこの家族信託の場合には専門家に相談せずに手続きを進めていくことが可能です。

ただし遺留分に関する問題、不動産の名義変更をする場合、税金の支払いや申告に関する問題など、随所で専門家の助けが必要になってきます。

家族信託に必要な専門家は以下の方々となります。

遺留分に関する問題 弁護士
名義変更 司法書士
税金関係 税理士

相続を前提に考えるのであれば後々相続税の申告もあるので、まず相談する先は税理士が良いでしょう。

まとめ:信託を活用した相続~メリットとデメリット

今回の記事では信託を活用した相続についてご紹介しました。あくまでも「信託自体が相続税の節税になる」というわけではなく、信託の良さは、利用することで相続を円滑に承継することができるというものです。

相続に関連する信託は大きく分けて商事信託と民事信託(家族信託)があります。家族信託のメリットとしては財産管理、受益者の連続指定、遺言書の補完機能があります。家族信託のデメリットは税金計算が複雑、遺留分の侵害の可能性がある、受託者責任が大きい、専門家が少ないことなどです。

家族信託は認知症になる恐れがあり財産管理に心配がある場合に特にお勧めです。家族信託の相談は、遺留分に関するものは弁護士に、登記に関するものは司法書士、税務に関する部分は税理士にご相談ください。

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