相続税の節税に効果的!抑えておきたい相続税対策の基本まとめ
相続税の節税対策は相続までの時間が確保されている場合とそうでない場合によって対策も異なります。今回の記事では「時間をかけた」相続対策と「時間をかけない」相続対策に分けて相続の節税対策の基本的な部分をご紹介します。
時間をかける相続税の節税対策
相続税の節税対策として、相続開始までに時間のある方、ない方によって方法は異なります。まずは比較的相続開始までに時間があるという方のための節税方法をご紹介します。「相続開始までまだ時間はあるけれど早めに対策しておきたい」という方にお勧めの相続税対策です。
- 暦年贈与を利用した相続税の節税対策
- 贈与を活用した相続対策のポイント
- 法人設立による節税対策
- 生命保険を活用した節税対策
暦年贈与を利用した相続税の節税対策
暦年贈与を利用し10年以上の時間をかけて少しずつ贈与し続けていくことにより、将来の相続税を大幅に節税することができます。また贈与の対象を子だけでなく「孫」や、「子供の配偶者」など人数を増やせば増やすほど非課税で贈与することができる金額を増加させることができます。
暦年贈与の基礎控除額は110万円ですが、その金額にこだわらなくても「200万円以下」であれば10%の税率負担で抑えることができるので、時間をかければ数億円の財産を10%の税負担で子や孫に承継させることが可能となります。
暦年贈与による相続税節税のメリット
相続では財産を取得する人が被相続人(亡くなった方)の一親等の血族や配偶者以外の場合、相続税の2割に相当する金額が「加算」されてしまいます。
しかし贈与税にはそのような規定はありません。そのため例えば「孫」などへ生前贈与しても「2割加算」はされずに、通常の贈与税の計算で贈与税額が算定されます。また受贈者である孫などの直系卑属が20歳以上であれば「特定贈与」に該当して控除額が増えるというメリットもあります。
贈与を活用した相続対策のポイント
暦年贈与を節税対策として最大限に活用するためにはいくつかのポイントがあります。
受贈者を多くして贈与する
複数に贈与することで贈与税を活用した節税は最大限にメリットを発揮します。贈与税の控除は一人当たり110万円とされていますので、例えば5人に贈与すれば550万円の控除を使うことができます。
値上がりする前に贈与
贈与のメリットは「贈与する時期を選ぶことができる」ということです。そのため近い将来値上がりすることが確実と思われる資産を値上がり前に贈与することによって節税することができます。
贈与財産の相続税評価額を引き下げてから贈与
贈与する財産の相続税評価額を下げてから贈与することによって節税することができます。代表的な例が「自社株」です。自社株を贈与する場合にはまず自社株の評価を下げる努力をし、それから贈与することにより節税することができます。
年を分けて贈与する
相続税は累進税率を採用しているので贈与額が上がればその分税率も高くなります。そのため贈与する場合にはできるだけ年を分けて贈与するようにしましょう。
以上が贈与による4つの節税対策のポイントです。「贈与」による相続税の節税対策は時間をかけて計画的に行えば非常に効果のある節税対策となります。
法人設立による節税対策
賃貸マンションやアパートなどの「家賃収入」を得られる収益物件を持ち続けていると将来の相財産は年々増加していきます。賃貸物件の管理会社として「法人」を立ち上げることで相続財産増加を軽減させることができます。また所得の分散により所得税の税率も下げることができます。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
所得税の税率は「超過累進税率構造」になっているため、高所得になるほど税率も上がっていきます。不動産管理会社を通して所得を”分散”させることにより、所得税率を引き下げることができます。
この記事のポイント
不動産の管理会社を設立する2つのメリット
- 将来の相続財産の増加を防ぐことができる
- 所得税を抑えることができる
生命保険を活用した節税対策
保険金は500万円×法定相続人の人数が「非課税」となり相続税の対象となりません。例えば相続人として配偶者と子供二人がいる場合、500万円×3人ですので1,500万円のまで非課税となります。若いうちであれば比較的少ない保険料で加入できますし、相続税の納税資金の確保という意味も含めて生命保険は早めの相続対策として有効です。
時間をかけられない場合の相続税の節税対策
将来被相続人となる方がすでに高齢である、または余命宣告を受けているなど相続対策をしたいけれどもあまり時間をかけられないというケースもあります。そのような場合にはどのような相続税対策をすることができるのでしょうか?
- 養子縁組による節税対策
- 非課税贈与や非課税財産の取得による節税対策
- 短期の節税に効果的な贈与
- 評価差額の大きな資産の取得または建築による節税
養子縁組による節税対策
養子縁組により基礎控除の金額をあげることができます。基礎控除は3000万円+(600万円×法定相続人の数)で計算されますので、養子縁組をすればこの「法定相続人の数」を増やすことができます。ただし、相続税の計算上認められている養子縁組の人数は
実子がいる場合 | 1人 |
---|---|
実子がいない場合 | 2人 |
と決められています。つまり養子縁組により最大1200万円の控除を受けることができます。
非課税贈与や非課税財産の取得による節税対策
以下にあるような相続税のかからない財産を生前に取得、支払いをしておくことによって将来の相続税を抑えることができます。
相続税がかからない財産
- 墓地や墓石、仏壇、仏具、神を祭る道具など日常礼拝をしている物。ただし、骨とう的価値があるなど投資の対象となるものや商品として所有しているものは相続税がかかります。
- 宗教、慈善、学術、その他公益を目的とする事業を行う一定の個人などが相続や遺贈によって取得した財産で公益を目的とする事業に使われることが確実なもの
- 地方公共団体の条例によって、精神や身体に障害のある人又はその人を扶養する人が取得する心身障害者共済制度に基づいて支給される給付金を受ける権利
- 相続によって取得したとみなされる生命保険金のうち500万円に法定相続人の数を掛けた金額までの部分。なお、相続税の対象となる生命保険金については相続税の課税対象になる死亡保険金で説明しています。
- 相続や遺贈によってもらったとみなされる退職手当金等のうち500万円に法定相続人の数を掛けた金額までの部分。なお、遺族が受ける退職手当金、功労金については相続税の課税対象になる死亡退職金で説明しています。
- 個人で経営している幼稚園の事業に使われていた財産で一定の要件を満たすもの。なお、相続人のいずれかが引き続きその幼稚園を経営することが条件となります。
- 相続や遺贈によって取得した財産で相続税の申告期限までに国又は地方公共団体や公益を目的とする事業を行う特定の法人に寄附したもの、あるいは、相続や遺贈によってもらった金銭で、相続税の申告期限までに特定の公益信託の信託財産とするために支出したもの
生前に相続財産を相続税のかからない財産に「組換え」をしておきましょう。
短期の節税に効果的な贈与
先ほどご紹介した「暦年贈与」は相続開始前3年以内の贈与である場合、相続財産に加算されてしまいます。しかし「相続開始前3年以内の贈与」であっても相続財産として加算されない贈与もあります。
加算しない贈与財産の範囲
- 贈与税の配偶者控除の特例を受けている又は受けようとする財産のうち、その配偶者控除額に相当する金額
- 直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち、非課税の適用を受けた金額
- 直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち、非課税の適用を受けた金額
- 直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち、非課税の適用を受けた金額
この4つの贈与に関しては相続開始前3年以内の贈与であっても相続税には加算されません。それぞれの贈与について簡単にご紹介します。
贈与税の配偶者控除の特例
婚姻期間が20年以上の夫婦であれば、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合最高で2,000万円まで控除(配偶者控除)を受けることができます。
配偶者控除の特例を受けるための適用要件
- 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
- 配偶者から贈与された財産が、自分が住むための国内の居住用不動産であること又は居住用不動産を取得するための金銭であること
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した国内の居住用不動産又は贈与を受けた金銭で取得した国内の居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること
※この特例は一生に一度しか適用を受けることができません。
住宅取得等資金の贈与
父母や祖父母など直系尊属からの贈与により、自己の居住する住宅用の家屋の新築、取得又は増改築等のための資金を取得した場合は一定の要件を満たすときは、一定の非課税限度額までの金額について、贈与税が非課税となります。(平成27年1月1日から平成33年12月31日までの特例です)
条件に該当すれば以下の金額まで非課税となります。
住宅用家屋の取得等に係る契約の締結日 | 省エネ等住宅 | 左記以外の住宅 |
---|---|---|
平成31年4月1日~平成32年3月31日 | 3,000万円 | 2,500万円 |
平成32年4月1日~平成33年3月31日 | 1,500万円 | 1,000万円 |
平成33年4月1日~平成33年12月31日 | 1,200万円 | 700万円 |
住宅用家屋の取得等に係る契約の締結日 | 省エネ等住宅 | 左記以外の住宅 |
---|---|---|
~平成27年12月31日 | 1,500万円 | 1,000万円 |
平成28年1月1日~平成32年3月31日 | 1,200万円 | 700万円 |
平成32年4月1日~平成33年3月31日 | 1,000万円 | 500万円 |
平成33年4月1日~平成33年12月31日 | 800万円 | 300万円 |
消費税が10%である場合とそうでない場合で異なりますが条件を満たせば最大で3,000万円まで非課税として贈与することができます。
教育資金の一括贈与
直系尊属から教育資金にあてるための贈与として30才未満の方に支払われた金銭等のうち、条件を満たせば1,500万円までの金額は贈与税の課税価格に算入されません。
この非課税制度を受けるためには
- 教育資金口座の開設等
- 教育資金非課税申告書をその口座の開設等を行った金融機関等の営業所等を経由して信託や預入などをするまでに受贈者の納税地の所轄税務署長に提出
- 領収書等の提出
などの手続きを行う必要があります。(平成25年4月1日から平成31年3月31日までの特例です)
結婚・子育て資金の一括贈与
20歳以上50歳未満の方が結婚・子育て資金に充てるために直系尊属から贈与を受けた場合、一定の要件を満たせば最大で1,000万円までの金額は贈与税の課税価格に算入されません。結婚・子育て資金には次のようなものが含まれます。
結婚資金(300万円が限度)
- 挙式費用、衣装代等の婚礼(結婚披露)費用(婚姻の日の1年前の日以後に支払われるもの)
- 家賃、敷金等の新居費用、転居費用(一定の期間内に支払われるもの)
子育て資金
- 不妊治療、妊婦健診に要する費用
- 分べん費等、産後ケアに要する費用
- 子の医療費、幼稚園・保育所等の保育料(ベビーシッター代を含む)など
※全ての結婚・子育て資金支出額を使い切る前に贈与者が死亡してしまった場合には残額は相続財産に課税されます。しかしこの場合には相続税額の2割加算の対象とはしません。(平成27年4月1日から平成31年3月31日までの特例です)
評価差額の大きな資産の取得または建築による節税
相続財産として現金1億円を持っていれば評価額は変わらず1億円ですが、現金ではない相続財産に変えておくことで相続評価が8000万、6000万と下がる場合もあります。 事前に評価差額の大きな資産を取得したり建築したりすることにより相続税の節税対策をすることができます。
小規模宅地等の特例を利用した節税方法
小規模宅地等の特例とは、自宅の敷地や事業用に使っている土地についてその評価額を80%(不動産貸付業の場合は50%)下げてくれるという制度です。
利用区分によって限度面積や減額される割合が異なってきます↓
相続開始の直前における宅地等の利用区分 | 要件 | 限度面積 | 減額される割合 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
被相続人等の事業の用に供されていた宅地等 | 貸付事業以外の事業用の宅地等 | 特定事業用宅地等に該当する宅地等 | 400㎡ | 80% | ||
貸付事業用の宅地等 | 一定の法人に貸し付けられ、その法人の事業(貸付事業を除く)用の宅地等 | 特定同族会社事業用宅地等に該当する宅地等 | 400㎡ | 80% | ||
貸付事業用宅地等に該当する宅地等 | 200㎡ | 50% | ||||
一定の法人に貸し付けられ、その法人の貸付事業用の宅地等 | 貸付事業用宅地等に該当する宅地等 | 200㎡ | 50% | |||
被相続人等の貸付事業用の宅地等 | 貸付事業用宅地等に該当する宅地等 | 200㎡ | 50% | |||
被相続人等の居住の用に供されていた宅地等 | 特定居住用宅地等に該当する宅地等 | 330㎡ | 80% |
※小規模宅地等の特例は平成30年度の改正によりいわゆる「家なき子」に対する税制優遇が見直されるなど、条件は少しずつ厳しくなってきてはいますが、まだまだ利用できる相続税対策です。
地積規模の大きな宅地
地積規模の大きな宅地とは広すぎて開発行為を行おうとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要となり、その部分を考慮した控除を受けられる制度です。
地積規模の大きな宅地の控除を受けるための条件
- 地積が500㎡(三大都市圏以外は1000㎡)以上であるか。
- 普通住宅地区または商業・併用住宅地区に該当しているか。(市街化調整区域等の一定の地域を除く)
- 指定容積率が400(23区は300)%未満であるか。
上記の要件を満たす場合には宅地の評価を2~3割下げることができます。
建物は3割の評価減
建物の評価は固定資産税評価額×1倍で計算されます。この固定資産税評価額は、時価の約7割程度の評価となっているので、現預金としての評価と比べ建物であれば約3割相続財産の評価を下げることができます。
相続対策の基本まとめ
いかがだったでしょうか?今回は相続発生までの準備期間が長く持てる場合と、そうでない場合の相続税対策についてご紹介しました。大きく分けて以下のような相続税対策があります。
準備期間が長く持てる場合
- 暦年贈与を利用して時間をかけて贈与
- 法人設立により将来の相続財産を減らす
- 生命保険の非課税枠を利用
準備期間があまりない場合
- 養子縁組により法定相続人の数を増やす
- 相続税がかからない財産への組み換え
- 相続財産に加算されない4つの贈与
- 土地・建物への相続財産の組み換え
様々な相続税対策がありますが「相続発生までの期間」と言っても誰がいつ死ぬのかということは誰にも分りません。早めに相続税対策をしておくことをお勧めします。相続税の節税対策については相続専門の税理士にご相談ください。