不動産を共有名義で相続するメリットとデメリット
不動産の相続では、相続税負担や相続人間の公平感、次の相続などを考慮して分割することがポイントです。分割せずに共有名義にして相続する方法もありますが、不動産の処分や利用方法をめぐって相続人間でトラブルに発展してしまうケースもあります。
不動産は分割か共有で相続する
不動産は、預貯金のように簡単に分割できませんので、相続問題は複雑になりがちです。分割する場合には、「現物分割」「代償分割」「換価分割」という3つの方法がありますが、分割せずに共有名義にして相続することもできます。
公平そうでトラブルにもなりやすい共有名義の不動産の相続
共有名義というと一見公平なようにも思えますが、さまざまなデメリットがあり相続人間のトラブルに発展してしまうこともめずらしくありません。
また、同じ不動産を相続しても、誰がどれくらい相続するかによって相続税負担が大きく異なることもあります。
不動産の相続方法については、税理士などの専門家へ相談しながら決めるのが得策です。
現物分割 | 不動産をそのまま分ける。(不動産を分筆などで分割したり、土地と建物をそれぞれ相続するなど) |
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代償分割 | 相続人のうち誰か1人が不動産を相続し、他の相続人にそれぞれの相続分の金銭を支払う |
換価分割 | 不動産を売却して得た代金を分ける |
不動産を共有で相続するメリット
不動産を共有で相続するという選択肢を検討することは多いでしょう。相続手続きの手間がかからず、公平なように思えるからです。
ここでは、不動産を共有名義で相続することのメリットをみていきます。
不動産をそのまま相続できる
共有名義での相続の一番のメリットは、特になにもせずに不動産をそのまま相続できるということです。
無理に売却しなくて済む
家族から相続する不動産は、愛着のある自宅や先祖代々の土地ということも多いでしょう。
これらの不動産を相続のために売却したり、分割したりということに拒否感を示す相続人もいます。
分割のために無理に売却する必要がないのは、共有名義で相続するメリットの一つでしょう。
公平感がある
相続人のうち誰か1人が不動産を相続するケースでは他の相続人が不公平に感じることもあります。
共有名義での相続なら、皆で共有するということで公平感が生まれます。
相続手続きが早く終わる
相続発生(故人が死亡したとき)から相続税の申告までの期間は、たったの10ヵ月です。この間に相続財産の調査や遺産分割協議(相続財産の分割方法についての話し合い)を速やかに行い、必要な場合には相続税申告手続きと納付を行わなければなりません。
不動産分割のことで話し合いがまとまらない場合には、いったん共有で相続することにすれば、遺産分割協議を進められます。
売却時に節税できるケースがある
相続した不動産を売却する場合には、共有で相続することにより節税できることもあります。
「空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例」を利用すれば、相続した住居を売却した際に3,000万円までの譲渡所得を特別に控除できます。
相続人1人当たり3,000万円が上限ですから、その住居の譲渡所得を得る相続人が増えれば、全体の控除枠も増えます。
譲渡所得を得る相続人 | 控除額 |
---|---|
1人 | 3,000万円 |
2人(持分1/2ずつ) | 5,000万円(2,500万円+2,500万円) |
例えば相続した住居の譲渡所得が5,000万円だった場合、1人が相続して売却する場合の控除枠は3,000万円ですが、2人以上の共有名義で相続した場合には5,000万円すべて控除されます。
特例の適用が受けられるか必ず確認を
この特例の利用には建築時期や売却するまでに賃貸などに利用していないことなど、いくつかの要件を満たさなければなりません。また、同じ年に自宅を売却した場合の控除額は合計で3,000万円が上限となります。
特例の要件は複雑で適用には確定申告も必要ですから、不動産の相続で節税をしたい場合は、早めに税理士に相談することをおすすめします。
不動産を共有で相続するデメリット
不動産を共有で相続するのは簡単ですが、安易に選択することはおすすめしません。
ここでは、不動産を共有名義で相続した場合のデメリットをみていきます。
公平とは限らない
相続人の1人が共有名義の不動産に居住している場合、共有している他の相続人は相続による恩恵を受けられませんが、固定資産税の負担は生じます。
また、共有名義人をその住居から追い出すことはできませんから、明け渡してもらって処分することは不可能です。
不動産を利用しづらい
共有名義人が誰も住んでいない不動産であっても、1人の名義人が誰かに貸したり売ったりを勝手にはできません。
不動産を活用したくとも他の名義人の同意がないとできないことで、利用しづらくなります。
共有物の変更(売却や取り壊し) | 全員 |
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共有物の管理(リフォームなど) | 過半数 |
共有物の保存(メンテナンスや掃除) | 単独 |
権利関係者が増えていく
相続の発生などで共有名義人が増えると、権利関係はさらに複雑になってしまいます。
共有名義人の死亡で関係者が倍増
当初共有名義人が兄弟2人だったとしても、1人が死亡して相続が発生した場合に子2人と妻が相続すれば、共有名義人は一気に4人に増えてしまいます。
共有名義人が増えればそれだけ話し合いを大人数で行わなければならなくなり、手続きも煩雑になります。
認知症になった場合などにもリスクは生じる
共有名義人が認知症を発症し、本人の合意が得られなくなってしまう可能性もあります。この場合、後見人が必要になるケースもあります。
登記の手間が増える
不動産の共有名義人が多ければ、その分名義人が変更になった場合の登記手続き回数が増えます。名義変更には手数料がかかりますし、登録免許税もかかります。
管理が難しい
土地や家屋は定期的なメンテナンスや清掃などの管理が必要ですが、共有名義人の誰が管理するのかは難しい問題でしょう。
空き家になっている場合、一番近くに住んでいる共有名義人が1人で管理をするようなケースもでてきます。
共有の財産である不動産の管理負担が偏ることで不満が生じ、トラブルになることも考えられます。
トラブルの原因になる
仲の良い兄弟が不動産を共有する場合などは、問題がないようにも思えますね。
しかし、転職や結婚、子どもができることなどで兄弟の関係に変化が生じることはよくありますし、単に年を重ねることで疎遠になることもあります。
不動産を共有していること自体が後のトラブルの原因になる可能性もあるのです。
不動産を共有で相続した場合のトラブル例
不動産を共有で相続することにはデメリットが目立ちますが、実際にどのようなトラブルが起こっているのでしょうか。
ここでは不動産を共有で相続した場合に起こりうる具体的なトラブル例をみていきます。
共有名義人が売却に同意してくれないため処分できない
売却を前提に共有で相続した不動産であっても、実際に売却する際に共有名義人の1人でも反対すれば売れなくなってしまいます。
売却そのものに反対されることもありますし、売却価格に納得がいかずに反対されることもあります。
「すぐに現金が必要だから早く共有している不動産を売りたい」という事情のある共有名義人がいても、
「この不動産はもう少ししたら値上がりするので、まだ売りたくない」
と、反対されてしまうかもしれないのです。
共有名義人が共有持分を第三者に売ってしまった
共有している不動産は単独で売却できませんが、自身の所有している持分の売却は自由です。
そのため、不動産の一部を第三者に売られてしまうリスクもあります。
この場合、不動産活用のための話し合いのハードルはさらに上がってしまいます。
自身の持分を売りたくても売れない
共有名義の不動産のうち、自身の持分の売却は可能です。
しかし一部だけでは価値が著しく下がってしまうような不動産では、買い手がつかないことも多いでしょう。
持分を他の名義人に買い取ってもらうことも可能ですが、その金額について揉めてしまう可能性もあります。
共有名義の不動産に住んでいる名義人が家賃を払わない
共有名義の不動産に単独で住んでいる共有名義人は、その不動産を独占して利用している状況ですから、他の共有名義人に家賃を払うのが妥当と考えられます。
しかし、「昔から住んでいた家だから」「家族の家に住んでいるのに家賃を払う必要はない」といういうような主張をされることもあります。
家賃の徴収に合意しても、近隣の家賃相場通りとはならない可能性もあります。
共有名義人が増えすぎて、売却や賃貸利用への協力を得られない
共有名義人の死亡で相続が発生するなどして共有名義人が増えると、不動産の利用についての話し合いも困難になります。
血縁でなかったり、関係が疎遠だったり、遠方に住んでいたり、持分が少ないなどの状況では、積極的に協力する気になれないのも仕方ありませんね。
人数が増えれば、相続人の調査をして同意を得たり登記手続きを行ったりという手間も非常に煩雑になってしまいます。
共有名義での不動産の相続はなるべく避けるのがベター
共有相続は問題の先延ばし。将来の遺産分割がトラブルの火種に
不動産を共有名義で相続すると相続手続きがスムーズに終わるように思えますが、それは問題を先延ばしにしているだけとも言えます。
トラブルの原因を作らないためにも、後の世代のためにも、共有での相続はなるべく避けたほうがよいでしょう。
代償分割や換価分割などに話し合いは不可欠ですが、きちんと分割を行っておくほうがすっきりします。
不動産の相続は税理士に相談を
不動産の相続方法、分割方法については専門家へ相談することをおすすめします。税理士なら、税負担も考慮した的確なアドバイスができるでしょう。